企業の従業員が、心身ともに健康でその能力を十二分に発揮できるようにする「健康経営」と、働きたい女性が個性と能力を十分に発揮できる社会を目指す「女性活躍推進」。人手不足時代において、この2つの取り組みはますます重要性を増しています。
実際、女性従業員の多くがPMSや更年期症状など女性特有の健康課題を抱えており、また妊娠・出産などのライフイベントを機に退職してしまう女性も少なくありません。
本記事では、健康経営で女性の就業継続を支援する具体策や、企業の事例をご紹介。さらに、女性の健康課題の解決をサポートする「フェムテック」など、最新テクノロジーを活用した先進的な取り組みまでご案内します。
なぜ今、企業に「健康経営」が求められているのか
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取り入れている企業も出始めた「健康経営」とは、企業で働く従業員等の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えのもと、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することを指します。
この経営手法は、健康を維持・改善することで、従業員の能力が十分に発揮され、生産性向上等の組織活性化をもたらし、結果として業績や株価の向上につながるとする考え方にもとづいています。
まず、働き手が減る日本の将来と、国がすすめる対策について解説します。
40年後には労働人口が4割も減少?!少子高齢化が進む日本社会
健康経営が注目される背景には、進行する少子高齢化があります。みずほ総合研究所のレポートによると、40年後の2065年には、労働人口が2020年から4割も減少すると予測されています。
これが意味する所は、今10人でしている仕事のアウトプットを、将来的には6人で維持しなければならなくなるということです。そのためには、女性の社会参画や高齢者の方の労働参加も欠かせません。
国がすすめる「働き方改革」と「健康経営」
このような労働力人口の減少に対応するため、国は「働き方改革」を成長戦略の柱として推進しています。その重要な取り組みの一つが「健康経営」の普及です。
働き方改革では、長時間労働の是正や柔軟な働き方の実現、病気の治療と仕事の両立支援など、誰もが働きやすい環境づくりを目指しています。これらは従業員の健康維持に寄与し、女性や高齢者の労働参加も促進します。
国は健康経営を「日本再興戦略」の重要施策として位置づけ、優良な健康経営に取り組む企業を「健康経営銘柄」として選定。長期的な企業価値向上に取り組む企業として投資家にアピールする仕組みを構築しています。
健康経営が企業にもたらす具体的なメリット
国が健康経営を推進する背景には、少子高齢化による労働力不足という社会課題がありますが、企業にとっても健康経営に取り組むメリットがあります。
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出典:経済産業省 ヘルスケア産業課「ステークホルダーとの関係における「健康経営」のメリット」
企業が健康経営に取り組む具体的なメリットは以下のとおりです。
社内への影響
・健康に対する意識向上
・コミュニケーションの活性化
・仕事の満足度、モベーションの向上
・生産性向上
・業績、売上向上
・有給取得率の向上
・時間外労働の減少
・事故や労災件数の低下
・離職率低下
ステークホルダーへの影響
・ブランドイメージの向上
・講演やインタビューなどのPR機会の増加
・他業種との交流
・投資家からの評価
・取引顧客数の増加
企業に求められる「女性活躍推進」とは
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働く女性が増えるなか、企業には女性がより活躍できる職場環境の整備が求められています。2015年に制定された女性活躍推進法は、そんな時代の要請を反映したものといえます。
「女性活躍推進法」の概要と制定された背景
女性の労働参加が進み、社会で活躍する女性は年々増加しています。しかし、出産・育児を機に退職する女性や、働きたいのに働けていない女性も多いという現状があります。
このような状況を受けて2015年に制定されたのが「女性活躍推進法」です。この法律では、企業に女性の採用・昇進機会の積極的な確保や、仕事と家庭の両立支援など、女性が働きやすい環境づくりを求めています。
女性活躍推進法には、以下のような原則が定められています。
・女性に対する採用や昇進などの積極的な機会提供とその活用
・家庭と職業生活の両立を図るための環境整備、サポート
・家庭と職業生活の両立における女性の意思尊重
「女性活躍推進法」が企業に求める対策
女性活躍推進法では、企業に3つの取り組みを義務づけています。
1.女性の活躍に対する現状把握、課題分析
1つ目は、現状把握と課題分析。労働者における女性の割合や男性との平均勤続年数の差、月ごとの平均残業時間、女性管理者の割合などを洗い出し、自社が抱えている課題を分析します。
2.行動計画の策定と届け出
分析結果をもとに、女性活躍推進に向けた行動計画を策定。行動計画には、計画期間や数値目標、取り組み内容、実施期間などを盛り込みます。行動計画が確定したら、社内外へ公表。社内へは掲示やメールの送付、社外へはホームページへの掲載などで周知しましょう。
また、作成した行動計画は、管轄の都道府県労働局へ提出する必要があります。郵送や持参以外に、電子申請も可能です。
3.行動計画の実施と評価
行動計画をもとに、取り組みを実施します。大切なのは、トライしたままにしておかないこと。定期的に進捗や目標の達成状況を確認し、効果測定を行いましょう。PDCAサイクルを意識することで、さらに取り組みはブラッシュアップされます。
女性活躍推進における主な課題と対策
女性活躍推進に向けてさまざまな取り組みが進んでいますが、課題を抱えている企業は少なくありません。
社内での認知が進まない
上司だけでなく、対象者も制度を理解していないケースがあります。社内での認知が進まなければ、人事部が取り組みを推進したとしても他部署に協力してもらえない可能性も。
このような課題を解決するには、制度や法律の存在を知ってもらう必要があります。政府の取り組みを社内広報する、女性活躍推進に関係する研修を受けてもらうなどで、社内の認知度を高めることが大切です。
育休復帰後のパフォーマンス低下
育休中は、子どもの世話に集中するため、どうしても職場とのコミュニケーションが希薄に。そのため、育休復帰後に仕事のパフォーマンスが低下してしまうという課題が生じやすくなります。
パフォーマンスの低下を防ぐには、育休中のフォローが欠かせません。復帰前に面談の機会を設けたり、密に連絡を取り合ったりして、対象者との関係が希薄にならない状況を作りましょう。
女性特有の健康課題が仕事に与える影響
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女性従業員の多くは、月経によるPMSや更年期などの健康課題を抱えながら働いています。これらは日々の業務パフォーマンスに影響を与え、時には就業継続の妨げにもなっています。
働く女性が増えるなかで、女性特有の健康課題が仕事に与える影響について、企業の理解と支援が求められています。
女性のライフステージごとの主な健康課題
女性には、小児期・思春期・性成熟期・更年期・老年期という5つのライフステージがあります。
月経の開始とともに、月経困難症や月経不順、子宮内膜症、子宮筋腫、貧血などさまざまな病気にかかる可能性が高まります。
さらに更年期以降は、女性ホルモンの減少による症状が出現。ホットフラッシュ、動悸、睡眠障害などに悩まされる方は少なくありません。
そのほか、不妊治療や妊娠、出産に関するサポートも必要です。このように、女性はライフステージごとにさまざまな健康課題を抱えています。
なお、最近は男性でも中年以降に更年期障害などが現れることがわかっています。
労働生産性の低下・離職・キャリア形成の障害
なかには、月経にともなう症状によって労働生産性が低下していると感じる女性や、不妊治療や更年期症状によってキャリア形成を諦めたことのある女性もいます。
これまでは、女性特有の健康課題についてあまり問題視されてきませんでした。しかし、労働力を確保し、企業が成長し続けるには女性への健康支援が欠かせません。女性活躍推進は、企業の存続を左右する重要な取り組みといえるのです。
健康課題解決の新たな選択肢「フェムテック」
企業の健康経営や女性活躍推進の取り組みにおいて、女性の健康支援は重要な課題の一つです。近年、その具体的な手法として注目を集めているのが、テクノロジーを活用した「フェムテック」です。
ヘルスリテラシーの向上や健康管理ツールとしての導入が進み、福利厚生の新たな選択肢としても広がりを見せています。
フェムテックとはなにか
フェムテックとは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」の言葉を組み合わせた造語。女性特有の健康課題を、商品やサービスなどの先進的なテクノロジーで解決することを意味します。
フェムテックサービスの種類と特徴
フェムテックに決まった分類はありませんが、一般的には6つのジャンルにわけられています。
月経
生理用品やナプキン、吸水ショーツ、月経カップ、月経管理アプリなど。月経期間を少しでも前向きに過ごせるような商品やサービスがラインナップされています。
デリケートゾーンケア
人には相談しづらい女性の悩みに陰部周りのデリケートゾーンのかゆみや黒ずみがあります。原因となる汚れや刺激、乾燥・蒸れなどをケアするため、膣内環境サポートサプリメント、デリケートゾーン専用ソープや保湿クリーム、刺激が少ない下着などの商品がラインナップされています。
不妊や妊活
基礎体温計や妊娠検査薬、生理排卵用予測アプリ、卵子凍結サービスなどが該当します。妊活や不妊治療は女性の肉体的、精神的負担が大きくなりがち。フェムテックは、妊活にともなう負担軽減に寄与します。
妊娠や産後
つわり管理アプリや骨盤ケア商品、妊娠線予防クリーム、搾乳機などの商品、サービスがあります。妊娠や産後は、ホルモンバランスが大きく変化しやすい時期。心身に不調をきたすことも珍しくありません。妊娠中や産後の女性をサポートするために、フェムテックではさまざまな商品、サービスが開発されています。
更年期
更年期は、女性ホルモンの減少にともなって肩こりや冷えといった特有の症状が出やすい時期。症状を和らげるために頻尿や尿漏れ、更年期サポートアプリなどのフェムテック商品が登場しています。
ウェルネス(女性に起こりやすい疾患)
ウェルネスとは、子宮や卵巣、乳房など、女性特有の器官に生じる疾患のこと。この分野のフェムテックでは、痛みに配慮した検査方法が開発されています。
セクシャルウェルネス
性の健康を意味する言葉。女性向けのプレジャーアイテムなど、性の健康維持をサポートする商品、サービスがあります。
企業での導入・活用事例
フェムテックは、さまざまな企業で導入が進んでいます。
ポーラの事例
ポーラでは、女性の健康課題を解決するべく、福利厚生としてさまざまなフェムテックを導入。生理用品を個室トイレに常備する、吸水ショーツの購入や低用量ピルの処方に必要な費用を補助する、女性活躍推進に関する動画やウェビナーを従業員に紹介するなど、積極的な取り組みがすすめられています。
なかでも、産後ケアアプリ「mamaniere(ママニエール)」は従業員の提案から事業化したサービス。女性の健康課題を社内で積極的に議論することで、新しいプロジェクトの立ち上げにも貢献しています。
丸井グループの事例
女性の健康をテーマにしたウェビナーの開催や、子宮頸がんの啓発活動、オンラインで婦人科診療や低用量ピルの処方を受けられる「月経プログラム」など、多様なサービスでフェムテックを推進。経営目的であるウェルビーイングに向けて、積極的な活動を行っています。
まとめ
「健康経営」と「女性活躍推進」は、人手不足時代における企業の重要な経営課題となっています。
2015年に制定された女性活躍推進法により、企業には女性が働きやすい環境整備が求められ、また健康経営優良法人認定制度により、従業員の健康管理への取り組みも評価されるようになりました。
その具体的な施策の一つとして、女性特有の健康課題に対応したフェムテックサービスを福利厚生に取り入れる企業が増えています。月経関係症状や更年期症状への対応から、妊活・産後ケアまで、ライフステージに応じた支援ツールとして活用されています。
「FEMTECH LAB」では、導入を検討する企業向けに、各種サービスの紹介やセミナー開催、個別相談などを行っています。健康経営や女性活躍推進に取り組む企業の皆様は、ぜひご相談ください。
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